今こそ君は、本当のヒーロー









絶望、その意味が分かった気がした。












ピンポーン

インターホンが鳴る。
出なきゃ。
涙を隠して。

「・・・はい。」
「翔?」

美咲、か。





「どうしたの?」
「近くまできたから、よってみようと思って。」

ニコッと笑う美咲の顔に、少し励まされた気がした。













「舞台、どうだった?」









ウエストサイドストーリー。
俺には、大きすぎる舞台。
昨日初日を終えて、明日からはまたトニーになる。















「今度見に行くから。」

「・・・見に来るな。」













「・・・えっ?」

「見に来るなって言ってんだよ!」

俺のあんな姿なんて見ないでほしい。
美咲は何も悪くないのに、当たってしまう。
ごめん、美咲。











「見に行くよ。」

なんで、怒らないの?












「私は、どんな翔も見たい。」



ファンの子達は、『すごい良かった。』って言ってくれて。
それには俺ももちろん励まされて。
カーテンコールの時も、すごい気持ちよくて。

でも、本当に求めていたのはこんなのじゃなかった。
俺は、何も伝えられていない。
この舞台の本当の悲しみ。

きっと、俺は伝えられていない。

ファンの子は、『嵐の櫻井翔』に目を輝かせていた。
『トニー』ではなくて。













「翔。」
「なに?」







「何を、怖がってるの?」








気づいていたんだな。
泣いていたのも。
考えたのも。

それを受け止めてくれようとする美咲に、俺は全部話そうと思った。





「俺、本当は自信なんてない。
このまま行けばやり遂げられると思うけど、それじゃこの舞台が台無しになっちゃう。
歌も歌えない。

マリアを抱きたい気持ちとか、それを争う悲しみとか。
きっと、俺には重すぎた。」





泣きながら話した俺を、細い腕で美咲は抱きしめてくれた。














「辛かったね、翔。」








「でも、私は違うと思う。
ファンの子達はちゃんと、『嵐の櫻井翔が演じたトニー』に泣いてくれたと思うけど。

最初から全部できる人なんていないよ。
でも、頑張ってもできない人もいないの。
いるとしても、翔はそうじゃない。

変わろうと思えば、いつでも変われるんだよ。
今すぐじゃなくても良い。
翔には、信じて待ってくれている人がたくさんいるじゃない。」


美咲の言葉が、液体のようにしみこんだ。









「美咲、ありがとう。」

抱きしめる手を強める。
美咲も、一生懸命俺を受け止めてくれて。
この人が、俺の好きになった人。







「美咲、俺頑張るよ。」









「美咲が来るときまでに、自信を持って舞台に立てるようにする。
だから、もし俺がトニーになりきることができたら。

美咲もトニーに拍手を送ってくれますか?」










「はい。
じゃあ、私からも約束。
私だけじゃなくて、見に来てくれるみんなのために。
翔は、頑張ってくれますか?」

俺の胸の中で、芯のある声で聞く美咲。










「はい。
みんなのために。
頑張ります。」






美咲のために、みんなのために。




明日、あの舞台に。









俺は、立つんだ。
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by arasatoshi | 2004-12-11 12:02
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